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dead simple
TVドラマ作品2・その他(1980s)

Missing Pieces
(TVムービー)

▲主演のE・モンゴメリー
【スタッフ】
監督・脚本/マイク・ホッジス
原作/カール・アレクサンダー
製作/ダグ・シャピン
撮影/チャールズ・コレル
美術監督/フレッド・ハープマン

【キャスト】
エリザベス・モンゴメリー(サラ・スコット)
ロン・カラバッソス(クロード・パパジアン)
ジョン・ライリー(サム)
ルーアン(ヴァレリー・スコット)
ロビン・ギャメル(ローレンス・コンラッド議員)

[1983年アメリカTV映画/カラー/96分/スタンダード/CBS製作]
日本未公開


Story

 サラ・スコット(エリザベス・モンゴメリー)は、リポーターである夫アンディ(デイヴィッド・ハスケル)を殺され、犯人の正体を暴くため新人探偵となる。彼女は私立探偵パパジアン(ロン・カラバッソス)と共に、事件の真相へと迫っていくが、そこには腐敗した政治スキャンダルの影があった……。


About the Film

■一風変わった素人探偵ミステリー
 アメリカ3大ネットワーク局のひとつ、CBSが製作したTVムービー。『タイム・アフター・タイム』(1979)の原作者カール・アレクサンダーの小説「A Private Investigation」をもとに、殺された夫の死を解明しようとする素人探偵サラの活躍を描く。ヒロインを演じるのは、大ヒット番組『奥さまは魔女』(1964-1972)のスター、エリザベス・モンゴメリー。

 監督・脚色を担当したホッジスは、フラッシュバックとナレーションを多用し、一風変わった構成のミステリーに仕立て上げた。サイコロジカルな悪夢的感覚が漂い、単なる探偵ドラマには終わらないテイストを持った作品になっているという。

 世間嫌いの探偵パパジアンを演じるロン・カラバッソスの演技は「モンゴメリーを食うほどの素晴らしさ」という評価もあり、ヒロインの娘を演じるルーアンの存在感も見どころとか。


Production Note

■悪夢の土地への逃走
 『フラッシュ・ゴードン』(1980)公開からほどなくして、ホッジスは妻ジーンと別居。1982年、2人の離婚は成立した。

ホッジス「私はずっと、家庭を維持しようと奮闘していた。が、それも離婚に繋がる原因のひとつだったんだろう。私は妻と2人の子供を養うため、いつも足踏み車を回し続けているような気分だった。やがて子供たちが私立校に入って手を離れ、家には夫婦2人と2台の車、各部屋に置かれた何台ものテレビが残された。私は彼女と別れ、手元には何ひとつなくなった。文無しさ」

 そのとき、アメリカのCBSから、『奥さまは魔女』でおなじみのエリザベス・モンゴメリー主演で、原作物のミステリードラマを脚色・監督してほしいという依頼が来た。ホッジスはカール・アレクサンダーの書いた原作小説を気に入り、何より離婚の痛手から目を背けるため、L.A.へと向かった。

ホッジス「L.A.は決して好きな土地じゃない。当然じゃないか? リムジンの内装を専門的に学びたいというなら話は別だがね(笑)。だが今回ばかりは、ネイティブとして土地に同化するような気持ちで赴いた」

■アート・セラピー
 晴れて旅回り監督となったホッジスは、当時習っていたクラリネットをいつでもどこでも持ち歩いた。L.A.で彼にクラリネットを教えていた老ジャズミュージシャンのジェリーは、ホッジスにとっては絵画の先生でもあった。

ホッジス「私は7歳ぐらいのときから絵なんて描いていなかったが、彼は自由にやらせてくれた。“教える”のではなく、とにかく自由に描かせてくれたんだ。ジェリーにはとても感謝している。今や絵画は私の人生におけるもっとも大きな喜びだ。映画と違って金はかからないし、出来上がってから“直せ”と言ってくる奴もいないしね(笑)」

 ホッジスにとって『Missing Pieces』制作中の期間は、人生を建て直し、自らの存在価値を見つめなおす時期だった。

ホッジス「作品自体は面白いものだと思うよ。原作の内容と、舞台となるアリーナの土地柄に惹かれたんだ。でもこの仕事を受けたのは、単純に忙しさにかまけて離婚の苦痛を忘れるためだった。全ての離婚経験者は悲惨なものだが、私も例外ではなかった。しばらく問題から身を離すことが、そのときは最善の策だと思ったんだ」

 あるとき、ホッジスはジェリーを『Missing Pieces』のスタッフに引き合わせた。彼は師匠とオーディエンスの見守るなか、クラリネットで一曲演奏してみせた。

ホッジス「あれを曲といえればだけどね……とにかく酷いものだった。ジェリーはいたたまれなかったと思う。無論、私もだ。分かってほしいのは、私が幼い頃に育んだ芸術的素養なんて、ゼロに近いということだ。まったくのゼロ!だよ。大人になってからは、ずっと芸術に対する興味を持ち続けている。今でも、知らない町に行って私がまずすることは、アートギャラリーを探すことなんだ」

(もうプロダクションノートでもなんでもないですね、これ)



E La Nave Va(And the Ship Sails On)
『そして船は行く』

▲イタリア公開時のキービジュアル
【スタッフ】
監督/フェデリコ・フェリーニ
脚本/カトリーヌ・ブレイヤ、ロベルト・ディ・レオナルディス(イタリア語台詞翻訳)、フェデリコ・フェリーニ、トニーノ・グエッラ
製作/フランコ・ガスタルディ
撮影/ジュゼッペ・ロトゥンノ
美術/ダンテ・フェレッティ
音楽/ジャンフランコ・プレニツィオ
英語版監修/マイク・ホッジス

【キャスト】
フレディ・ジョーンズ
バーバラ・ジェフォード
ヴィクトル・ボレッティ
ピナ・バウシュ

[1983年イタリア=フランス合作映画/カラー/127分/シネマスコープ]
日本公開:1985年11月(シネセゾン配給)


About the Film

■憧れの巨匠と共に
 1914年、第1次大戦勃発前夜を舞台に、世紀の大ソプラノ歌手の遺骨を葬送するため、大海原へと出航した一隻の船。そこに乗り合わせた人々の姿がファンタジックに描かれる――『そして船は行く』は、イタリア映画の巨匠フェデリコ・フェリーニ監督による、幻想的な群像歌劇である。マイク・ホッジスは、この作品の英語版アフレコの監修作業を担当した。

ホッジス「まず、フェリーニは友人のスタンリー・キューブリックに電話をかけたんだそうだ。彼はかねてから自作の外国語版の出来に不満を覚えていて、その助言を求めてね。キューブリックは“その国で名の知れた映画作家に頼むのがいちばんだ”とアドバイスした。とてもスマートな考え方だと思うね。それでイギリスだったら誰がいる? という話になって、私の名前が挙がったらしい。キューブリックが『電子頭脳人間』(1974)を気に入っているという話は前から聞いてたし、マルコム・マクダウェルの話では、『時計じかけのオレンジ』撮影中に『Rumour』(1969)を観て面白かったと言っていたそうだよ」

 その頃、ホッジスは『Missing Pieces』を終えた直後に大病を患い、退院して療養中の身だった。そこへ本作のアフレコ監修の依頼がやって来たのだ。憧れの巨匠からの思わぬオファーに心動かされたホッジスは、手術で弱った体を押して、一路イタリアへと向かった。

ホッジス「体調はまったく良くなかったが、この仕事だけはどうしても引き受けなければならなかった。フェリーニに一目会うためだけでもね(笑)」

 ホッジスは現地でフェリーニと対面し、編集されたフィルムを一緒に観賞。間もなく、ロンドンで英語版のダビング作業が開始された。

ホッジス「イタリアンオペラの世界を描いた、とてもジェントルで愛らしい映画だった。病気療養中の人間にはうってつけの作品さ(笑)。何度も何度も繰り返しフィルムを観たが、退屈するどころか、とてつもなく魅了されたよ。フェリーニの映画製作の秘密に迫れたような気がしてね。主要キャストはイギリス人だったから、思ったほどの負担はなかった」

 このときの経験は、次に彼が手がけたTVムービー『Squaring the Circle』(1984)のラジカルな舞台的演出へと結実することになる。



The Hitchhiker:“W.G.O.D”
『新ヒッチハイカー/トーク・レディオ』
(TVムービー)

▲主演のゲイリー・ビューシー

【スタッフ】
監督/マイク・ホッジス
脚本/トム・ボーム
タイトル音楽/ミッシェル・ルビーニ

【キャスト】
ゲイリー・ビューシー(ノーラン・パワーズ)
ジェラルディン・ペイジ(リネット・パワーズ)
ロバート・イトー(ハリー・サトー)
ペイジ・フレッチャー(ヒッチハイカー)

[1985年アメリカTV映画/カラー/25分/スタンダード/HBO製作]
ビデオ公開(メーカー:バップ)


Story

 バイブルベルトのクリスチャン向けラジオ局「W.G.O.D」。DJを務める伝道師ノーラン・パワーズ(ゲイリー・ビューシー)は、熱烈なトークで信者からの人気を得ていた。最近ではスキャンダル目当てのTVクルーまでうろつき始めるほどである。

 しかし、ノーランは人に言えない悩みを抱えていた。彼の母リネット(ジェラルディン・ペイジ)は、幼い頃から才能に溢れた次男のジェラルドを溺愛し、これといって取り柄のない兄ノーランはその劣等感から逃れられずにいた。だがあるとき、弟は忽然と姿を消し、行方不明となった。それからずっと、母は今でもノーランの放送を聴こうとせず、日がな一日ジェラルドの吹き込んだ聖歌のレコードを聴いている。

 そんなある日、オンエア中の「W.G.O.D」にかかってきた1本の奇妙な電話。それはジェラルドからだった。少年時代の美しい声のままで……。






About the Film

■地獄に堕ちる狂信者
▲撮影現場にて。ホッジスとビューシー
 米ケーブルTV局・HBOの人気番組『ザ・ヒッチハイカー』(1983-1991)の第3シーズンの一編として製作された、30分のサスペンスドラマ。この番組は地上波では放送できない過激な描写が売りで、HBOの最初のヒット作となった(製作プロダクションはカナダ)。各エピソードの演出には、ポール・ヴァーホーヴェンやフィリップ・ノイスなど、北米圏以外からも多くの気鋭監督たちが招かれている。

 本作“W.G.O.D”で描かれるのは、狂信的キリスト教徒のラジオ説教師が、かつて自分の犯した罪によって破滅するという物語。派手な人体損壊シーンなどはないものの、「ファンダメンタリストが地獄に堕ちる」という内容は十分にスキャンダラスであり、放送ブースが鮮血にまみれるクライマックスもなかなか強烈である。『PULP』(1972)『電子頭脳人間』(1974)でも見られたホッジスの宗教不信は、この作品でも断固としたものだが、演出はいたって真摯で、ありがちなカリカチュアライズはしていない。

 主演は狂ったキャラクターがよく似合うゲイリー・ビューシー。エキセントリックな狂信者を怪演する一方で、狂気に蝕まれていく男を抑えた表情で好演。B級アクション映画でのタフな役柄が目立つビューシーの、演技派としての一面が発揮された数少ないフィルムの1本である。

 日本ではバップから発売されたビデオ『新ヒッチハイカーVOL.3/背徳の街』に収録。

▲日本版ビデオジャケット

Production Note

■もっと血を
 HBOからホッジスのもとに来たオファーは、「どれでも好きなシナリオを選んで演出してくれ」というものだった。中でも彼の興味を引いたのは、アメリカのバイブルベルトを舞台に、狂信的な宗教エンターテイナーに焦点を当てたストーリーだった。後に『ブラック・レインボウ』(1989)でも繰り返されるテーマである。

 クライマックス、放送ブースのいたるところから聖痕よろしく真紅の血が吹き出し、壁やガラス窓を伝い落ちるイメージは、ホッジスのオリジナル案である。もとの脚本では、主人公が死んだ弟の声に苛まれながら、マイクから発生した電流に感電するという描写だった。しかし、監督は変更を加えた。

ホッジス「宗教とは血にかかわるものだ。だから電気ショックの代わりにマイクから血が滴り、スピーカーは不気味なうなり声をあげ、壁は息づき始めるという描写に変えたんだ。さながらフランシス・ベイコンの絵のようにね」



Midnight Shakes the Memory
(未映像化シナリオ)

About the Script

■失われた原案
 1937年、大恐慌さなかのニューヨーク。22歳の気鋭演出家オーソン・ウェルズは、労働者を主人公にした舞台劇「Cradle Will Rock」を上演しようとしていた。しかし、政府からの演劇援助基金が打ち切られ、劇場側は土壇場で上演中止を宣告。ウェルズは役者たちと観客を引き連れ、そこから21ブロック離れた別の劇場へと移動し、演劇人としてのプライドにかけて公演を強行した。俳優組合の規定を破れば二度と舞台に立てなくなる恐れもあったが、彼らは「舞台に上がらずに」客席で芝居を演じた。

 『死にゆく者への祈り』(1987)を終えた直後、ホッジスはその事件を題材にした映画の脚本・演出を依頼され、「Midnight Shakes the Memory」と題したシナリオを上梓。役名は架空のものだが、モデルはウェルズたち実在の人物である。全てのストーリーが舞台上で進行し、登場人物がしばしばカメラに向かって語りかける、『Squaring the Circle』の手法を踏襲した作品になるはずだった。かつてTV番組「Tempo」でオーソン・ウェルズ本人に取材したこともあるホッジスは、若きウェルズ役にティム・ロビンスを考えていたが、資金面の都合で諦めざるを得なくなってしまう。

ホッジス「数年後、私はロスで『ザ・プレイヤー』(1992)を撮影中のボブ・アルトマンを訪ねた。そこで初めてティム・ロビンス本人に会ったんだ。紹介されたとき、私が数年前に書いたシナリオを覚えているかい? と尋ねたら、彼はそれをとても気に入っていて、まだコピーが家にとってある、とまで言ってくれた」

 間もなくロビンスは『ザ・プレイヤー』の成功でスター俳優の仲間入りを果たし、ホッジスは再び企画を始動させようと各所に働きかけた。ロビンスもまたプロジェクトの再開に意欲を見せたが、彼は自ら脚本と監督を手がけたいと申し出た。ホッジスは潔く身を引き、代わりに制作初期に自分のギャラの中から立て替えた著作権料5000ドルの返却を要求した。

ホッジス「映画はオールスターキャストのビッグバジェット作品として製作されることになった。プロデューサーは私にいくらか原案料を払ってくれてもよさそうなものだったが、言うまでもなく、そんなことはなかったね」

 ティム・ロビンス監督のインディペンデント大作『クレイドル・ウィル・ロック』は1999年に完成した。ロビンスは「Cradle Will Rock」上演の顛末を中心に、ネルソン・ロックフェラーやディエゴ・リベラといった有名人たちを登場させ、時代の熱狂をタペストリー的に描いた。ホッジスは完成した作品にクレジットされていないが、それでよかったと安心している。

ホッジス「ひたすらとっ散らかった、気取った駄作だよ。ロックフェラーやディエゴ・リベラといった見せ掛けだけの余計なキャラクターを詰め込んで、シンプルなストーリーラインを台無しにしてしまった。私の書いたオリジナル脚本はとても簡潔なもので、それこそが全ての鍵だったのに。悲しいことに、彼は文字通りプロットを見失ってしまったんだ」


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