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Damien : Omen II
『オーメン2/ダミアン』


▲フランス公開版ポスター
【スタッフ】
監督/ドン・テイラー
脚本/スタンリー・マン、マイケル・ホッジス
原案・製作/ハーヴィ・バーンハード
撮影/ビル・バトラー(イスラエルの場面はギルバート・テイラーが撮影を担当)
音楽/ジェリー・ゴールドスミス

【キャスト】
ウィリアム・ホールデン(リチャード・ソーン)
リー・グラント(アン・ソーン)
ジョナサン・スコット=テイラー(ダミアン・ソーン)
シルヴィア・シドニー(マリオン伯母さん)
ランス・ヘンリクセン(ネフ軍曹)
ルーカス・ドナット(マーク・ソーン)

[1978年アメリカ映画/カラー/109分/シネマスコープ/20世紀フォックス制作]
日本公開:1979年2月(20世紀フォックス配給)


Story

▲日本公開時のパンフレット
 前作から7年。悪魔の子・ダミアン(ジョナサン・スコット=テイラー)は、巨大企業を経営する叔父のリチャード・ソーン(ウィリアム・ホールデン)に引き取られ、裕福な家庭で何不自由なく暮らしていた。今や利発で賢い少年に成長した彼は、ソーン家の一人息子で同い年のマーク(ルーカス・ドナット)と共に士官学校に通い、エリートへの道を着実に歩む毎日。

  リチャードの妻アン(リー・グラント)はダミアンを溺愛し、彼を毛嫌いする大伯母のマリオン(シルヴィア・シドニー)と対立していた。そんなある日、マリオンが謎の死を遂げる。さらに、ダミアンの秘密をかぎまわる女性ジャーナリストがトラックに撥ねられて惨死し、堰を切ったように奇怪な死亡事故が次々と発生。ダミアンが悪魔の子であると告げられたリチャードは、苦悶しながらもその証拠を探し始める。

 一方、ダミアンは上官のネフ軍曹(ランス・ヘンリクセン)から黙示録を読むよう告げられ、ついに己の宿命を知るのだった……。


How to Fail Filmmaking

■セカンド・チャンス
 マイク・ホッジスは『電子頭脳人間』(1974)の失敗後、次回作の企画を探して孤軍奮闘していた。自らシノプシスを書いたオリジナル企画もあれば、スタジオから持ち込まれた話もあり、その中には『オーメン』と題されたオカルト映画の監督オファーもあった。しかし、ホッジスはプロットを読んで「バカバカしい」と一蹴。そうして瞬く間に数年が過ぎていった……。

 彼が断った企画『オーメン』(1976)は、やはり同じく英国出身のリチャード・ドナーが監督し、世界的なヒット作となった。20世紀フォックスの重役は、1作目のテスト試写の段階ですでに「これは3部作シリーズだな」と決定していたという。ちなみにその時に映写していた場面は、デイヴィッド・ワーナー演じる記者の首がガラスで切断される場面だったとか。

 しばらく後、ホッジスのもとに再びハリウッドからのオファーが訪れる。今度は『オーメン』の続編を監督してほしい、という依頼だった。すでに自身の前作公開から4年が過ぎようとしており、なんとかキャリアを立て直したいと焦っていたホッジスは、シノプシスに書かれた「巨大企業による世界支配」という部分に惹かれたこともあって、正式に『オーメン2/ダミアン』の演出を引き受けた。

 ホッジスがプロジェクトに参加した頃、1作目の製作に携わったスタッフが次々と事故や不幸に巻き込まれる事件が頻発。またホッジス自身も、シリーズの原案者を名乗る男から「あなたがこの映画を作ろうとするならば、悪魔はそれをことごとく阻むだろう」というお告げを授けられた。これには無宗教者であるホッジスもさすがに不安を覚えたという。

■偏執
 その予言が的中したのか、『オーメン2』の撮影は難航。しかし、その主な原因は、ホッジスの偏執的なこだわりにあった。彼はひとつひとつのカットに凝りまくり、画面の端々に登場する小道具に意味を持たせ、イメージどおりの画が撮れるまでしつこくテイクを重ねた。つまり、作品をできる限りスタイライズされたビジュアルの映画にしようとしたのだ。

 実際、庭の焚き火ナメで画面奥からダミアンが初登場するショットなど、そうして撮られたいくつかのシーンには妙な迫力がある。大勢のエキストラが登場する士官学校の朝礼シーンでも、風に揺られる国旗のはためきのコンティニュイティひとつに異様な執着を見せたらしい。また、ホッジスはソーン家の莫大な富と権力を『市民ケーン』さながらに描こうとしたため、美術と照明にもかなりの時間が費やされた。ほとんどデイヴィッド・フィンチャーである。

■一触即発
 しかし、ホッジスのようにストーリーボードを使わず、現場でカッティングを考えるという演出法でそういったタイプの映画を作るのは、はっきり言って不可能だ。もしできたとしても、よほどの制作期間と忍耐力、何より莫大な予算が必要である。しかし、『オーメン2』は1ヶ月かそこらで撮影を済ませ、前作の人気が衰えないうちに公開しなければならない映画だった。にもかからわず、たった1ショットをほぼ1日がかりで撮るようなディテールへの執着は、当然プロデューサーの怒りを買った。

 原案と製作を手がけたハーヴィ・バーンハードは、『オーメン2』のDVDに収録されたオーディオコメンタリーで、ホッジスへの不満と怒りを露骨にぶちまけている。特に、トラックに撥ねられて死ぬ女性記者ジョーン(エリザベス・シェパード)が着ている真っ赤なコートには、いまだに我慢ならないようだ。

バーンハード「あのコートの色ときたら、観る度に腹が立つね。あまりにもベタだし、バカバカしいよ。だけどホッジスはあの色に固執したんだ。あんなの着る奴がどこにいるんだ?」

 バーンハードによると、ホッジスは記者が撥ねられるシーンを、ヘリコプターを使って俯瞰で撮ろうと言い出し、トラックの屋根を磨きだしたそうである。現場に来てからそんな思いつきを言っていいのはクロサワとフェリーニだけだ。バーンハードは怒りを爆発させた(ちょっとあんまりな話なので真偽のほどは分からないが)。

 一部ではプロデューサーがホッジスに銃を向けたという噂もあるが、真相は若干違っているようだ。

ホッジス「私はオフィスで、ややノイローゼ気味のプロデューサーと美術予算について議論していた。そのうち相手が激昂してきたので、私は“まあ落ち着けよ”と言った。だが、彼はいきなり自分のカバンの中身を引っかき回すと、拳銃を取り出して机の上にドンと置いた。私が“弾は入ってるのか?”と尋ねると、彼は“ああ”と答えた。しばらく2人で睨み合ったよ。もちろんとてつもない恐怖を感じたが、それが直接の降板理由じゃない」

■根本的な間違い
 ホッジスはビジュアル面では過剰なまでに意匠を凝らしながら、シリーズの大前提であるホラー映画としての部分には、ほとんど興味を注がなかった。どれほど時間をかけようと、出来上がってくるのはホッジス・スタイルの硬質でシンプルな映像と、俳優たちの抑えた演技。そして、いかにして巨大企業が世界を掌中に収めるかというサブテーマだった。今ではホッジス自身、「その点に関しては、全て私が間違っていた」と認めている。

 クランクインから間もなく、度重なる衝突とスケジュールの遅延に限界を悟ったホッジスは、「次の監督が来るまでは、とりあえずカメラを回す」と製作陣に告げた。そして撮影3週目で、ベテラン監督のドン・テイラーが雇われ、ホッジスは現場を去った。テイラーはすでに撮影された部分との繋ぎに苦心しつつ、職人的手腕で映画をまとめ、バーンハードの期待に応えた。

 完成した映画には、前半のソーン家、士官学校のシーン、女性記者のくだりなど、ホッジスが撮影したフッテージも少なからず残っている。彼は結局、本編では共同脚本としてクレジットされた。

■もしも……
▲家族でパチリ
 ホラー演出に興味のなかったホッジスの解雇は妥当なものだと言わざるを得ないが、この降板劇で残念なのは、ダミアンこそホッジス作品の主人公に相応しいキャラクターだったのではないか、ということだ。どこまでも虚ろな存在でしかない彼の葛藤、そして悪の王たる宿命を受け入れる結末のクールな表情は、ホッジスが演出していたならばよりスリリングに、説得力をもって描かれていたかもしれない。

 『オーメン2/ダミアン』は、前作のスマッシュヒットには及ばないまでも、全世界で好調な興行成績を残した。内容的にも、俳優陣の達者な演技と、ふんだんな残虐描写で飽きさせない作品に仕上がり、今でも根強い人気を誇っている。しかし、やはり主人公ダミアンの葛藤を描く部分では、物足りない結果に終わった。


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