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Florida Straits
『フロリダ・ストレイツ/脱出海峡』
(TVムービー)


▲日本版ビデオジャケット
【スタッフ】
監督/マイク・ホッジス
製作/ステュアート・B・レカント
製作総指揮/ロバート・M・クーパー
脚本/ロデリック・テイラー
撮影/デニス・C・ルイストン
美術デザイン/ヴォイテク
音楽/ミシェル・コロンビエ

【キャスト】
ラウル・ジュリア(カルロス・ハイン)
フレッド・ウォード(ラッキー)
ダニエル・ジェンキンス(マック)
ヴィクター・アーゴ(パブロ)
アントニオ・ファーガス(エル・ガトー・ネグロ)
ジェイミー・サンチェズ(イノセンテ)

[1986年アメリカTV映画/カラー/97分/スタンダード/ステレオ/HBO製作]
日本未公開・ビデオ公開(メーカー:ベストロン)


Story

 フロリダ沖で釣り船を営んでいる船乗りのラッキー(フレッド・ウォード)は、ひょんなことから旅の青年マック(ダニエル・ジェンキンス)とコンビを組むことに。そんな彼らの前に、謎めいた男カルロス(ラウル・ジュリア)が現れる。キューバ革命の闘士であり、20年ぶりに出獄した彼は、2人に船で自分を祖国まで運んで欲しいと依頼する。報酬はジャングルに隠した200万ドルの金貨。

 予期せぬ冒険に胸躍らせるマックと、嫌々ながら金のために仕事を引き受けるラッキー。だが、カルロスには別の目的があった。離れ離れになった恋人カルメンを探し出し、キューバ国外へと逃げることだ。

 キューバ領に上陸した3人は、ジャングルの中に建てられた巨大な発電所の廃墟に迷い込む。そこは解放軍を名乗る山賊のアジトであった。一時は囚われの身となってしまう3人だったが、隙をついて指揮官パブロ(ヴィクター・アーゴ)を殺し、再びジャングルへと逃走。怒り狂った部下(アントニオ・ファーガス)たちが彼らの後を追う。

 追っ手が迫る中、町へとたどり着いたカルロスは、20年ぶりにカルメンと対面する。だが、彼女は警官の妻となっていた。カルロスは長年抱いてきた夢を諦め、ラッキーたちと共に再び発電所へと舞い戻る。その場所にこそ、大量の金貨が隠されていたのだ……。


About the Film

■キューバを舞台にした冒険アクション
 『フロリダ・ストレイツ』は、HBO製作の長編テレフィーチャー。ラウル・ジュリアとフレッド・ウォードという男くさい顔ぶれで贈る冒険アクションロマンだ。ちなみにストレイツとは「海峡」と「難局」のダブルミーニング。

 ホッジスはまるっきり雇われ監督として演出しており、他の長編に比べるとかなり平板な印象。台詞に凝ったところも見せるが、全体的に中途半端な脚本を手がけたのは、『SFバイオノイド』(1986)のロデリック・テイラー。いかにも80年代っぽいミシェル・コロンビエの音楽がまた軽薄な印象を強めている。

■魅力的なキャスト
▲ジャングルで相談中の主役トリオ
 冒険映画の肝である主人公たちのアンサンブルという面では合格点。ロマンティストでタフな英雄カルロスを演じるラウル・ジュリア。「戦わずして勝つ」がモットーの元軍人、ラッキー役のフレッド・ウォード。そして暑苦しい2人の間で軽薄な明るさを振りまく青年マック役、ダニエル・ジェンキンス。この3人のバランスが、作品を十分に観られるレベルにしている。

 敵役のアントニオ・ファーガスは、人気TVシリーズ『刑事スタスキー&ハッチ』(1975-1979)の情報屋役や、ケン・ラッセル監督の『ボンデージ』(1991)でも強烈なインパクトを残した黒人俳優。合羽を被ってジャングルを疾駆するシルエットがかっこいい。また、マーティン・スコセッシ作品やエイベル・フェラーラ作品の常連として知られるヴィクター・アーゴが、指揮官パブロを演じているのにも注目。彼はホッジスの『電子頭脳人間』(1974)でも印象的な場面に出演している。

■苦心の末の「平均作」
 本作は予算の都合でメキシコ・ロケが中止となり、ノースカロライナ州で撮影された。低予算の中、苦心して再現されたジャングルやキューバの町並みは、意外に説得力を持って映っている。美術デザインを手がけたのは『Squaring the Circle』(1984)などでもホッジスと組んだヴォイテク。クライマックスを担う巨大な発電所跡も、異様な存在感を放っており、なかなかのインパクトだ。

 とはいえ、やはり出来としては平均クラス。予算をうまく節約したTVアクション映画というそのままの印象だ。アメリカ本国ではTV放映され、フランスでは劇場公開された。日本ではベストロンからビデオリリース。TVで放映されたときの題名は『カリブ慕情/隠された200万ドルの謎』だった。


Production Note

■メキシコに転ぶ
 『新ヒッチハイカー/トーク・レディオ』(1985)に続いて、ホッジスはHBOから長編ドラマ『フロリダ・ストレイツ』の演出オファーを受けた。あまりいい出来の脚本ではなかったが、離婚による財政難を解決するため、そして大好きな国メキシコでの撮影という条件に惹かれ、彼は契約書にサインした。

ホッジス「メキシコでのロケハンは素晴らしく、あんな脚本でも何とかモノになりそうだった。ラウル・ジュリアとフレッド・ウォードの参加も決まって、なかなか悪くない仕事になるんじゃないかと思ったんだよ」

 しかし、HBOのプロデューサーは、資金が足りないのでメキシコでの撮影は中止、と連絡してきた。寝耳に水のホッジスに、さらに追い打ちをかけるごとく、彼らは代わりにノースカロライナ州で撮影をおこなうよう注文した。

ホッジス「信じられなかったよ。ストーリーのほとんどがジャングルの中で展開するのに、ノースカロライナなんてまるでドーセット(イングランド南西部のド田舎)じゃないか! メキシコで撮影できなくなった本当の理由は今でも知らない。ともかく、嘘と策略が私のもとに再び忍び寄って来ていた」

▲背後から忍び寄る悪意(イメージ)

■苦心のロケーション
 仕方なく、ホッジスはノースカロライナ州シャーロットへとロケハンに赴いた。たどり着いた先は、シェルビーという名の小さな町。

ホッジス「まるで『ペイトン・プレイス物語』の舞台だったよ(笑)。後から分かったことだが、プロデューサーは現地のスタジオとくだらない契約を取り交わしていたんだ。私自身もHBOとの契約のおかげで、そこに6ヶ月も居座る羽目になってしまった」

 スタッフは絵に描いたようなアメリカのスモールタウンに、キューバの鬱蒼としたジャングルや、異国情緒の漂う町並みを再現しなければならなかった。苦境に陥った監督をサポートするため、美術デザイナーのヴォイテクを初めとするホッジス組のスタッフたちがイギリスから駆けつけた。

ホッジス「幸運なことに、私は顔なじみのチームを現場に連れて行くことができた。デザイナー、キャメラマン、オペレーター、編集者、さらに2人の息子まで。クルーの仕事ぶりはみな素晴らしく、私たちは何とか苦難を乗り切った」

 一方、ノースカロライナで目の当たりにした古びた町々のビジョンは、ホッジスに新たなインスピレーションを与えた。それは3年後に『ブラック・レインボウ』(1989)として結実することになる。

 編集を終え、フィルムをHBOに納品したホッジスは、やっと苦行から解放されたと一息ついた。しかし、本当の屈辱はそれからだった。

■裏切りに次ぐ裏切り
 HBO側はホッジスの編集したバージョンを気に入らず、全面的な再編集を断行した。

ホッジス「彼らはお粗末な代役スタントを使って、ラウル・ジュリアのアクションを追加撮影した。背も半分しかないような小男に、みっともないカツラをかぶせてね。さらに、私がニューヨークで見つけてきた素晴らしいキューバン・ミュージックのスコアを全て取り外し、聞くに堪えない音楽を全編に流したんだ。そのゴミはHBOで放映され、フランスでは劇場公開までされた。私の名前入りで」

 断りなしにフランスでの公開をおこなったHBOに対し、アメリカ映画監督協会は、ホッジスへ補償金を支払うよう命じた。彼にとってはそれだけが唯一の救いだった。


Review

▲ひねくれ者を好演するF・ウォード
 上記のような事情もあって、監督のモチベーションがベコベコに下がっているのは、作品を観ても一目瞭然。特に、普段のホッジスなら手を入れるであろう陳腐な台詞を、そのままスルーしてしまっていることからも明らかだ。あと何しろ音楽がひどい。正直言って、数あるホッジス作品の中でも、もっとも見どころのない作品なのではないだろうか。

 とはいえ、役者の顔ぶれやロケーションの工夫など、目を惹く部分も多々ある。ジェス・フランコ監督の『X−312/フライト・トゥ・ヘル』(1970)を観て「お、意外と面白いな」と思うくらいの感動はあるので、一度くらいは観ておいていいかもしれない。


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